2005年4月11日

肥満はなぜいけないか

 「僕の家族はみんな太っているけど元気だよ。どうして太っていたら駄目なの?」 外来でときどき尋ねられる質問です。肥満とは標準体重からの偏りであって、それ自体は病気ではありません。しかし、肥満をそのまま放置しておくと、生活習慣病(いわゆる成人病)にかかる率が格段に高くなります。脂肪細胞から血液中に分泌される種々の生理活性物質(アディポサイトカイン)および遊離脂肪酸が、動脈硬化や血栓やインスリン分泌不全をもたらすことが発症の原因です。人生の早い時期から太っている人ほど身体の損傷が著しく蓄積し、より早い時期に生活習慣病を発症します。筆者の診療経験においても、10歳代で糖尿病、脂肪肝、高血圧、高脂血症を発症するケースを多々見かけます。将来の狭心症・心筋梗塞や脳卒中への進展が気がかりです。日本人小児の肥満の頻度は過去15年間に2倍近く増加し、今や10人に1人が肥満児の時代です。小児科医にとって肥満対策は緊急を要する課題の一つです。

 筆者が肥満児とその家庭に対して強調する点を四つあげます。(1) 肥満が軽いうちに治療を始める方が効果は早く出ます。治療期間も短くて済みます。(2) 肥満の原因はエネルギーの供給と消費のアンバランスです。今一度、家庭での食生活と運動習慣を見直してください。どこかに問題があるはずです。(3) 肥満は悪循環します。太ることで動きが鈍くなったり汗をかきやすくなり、ますます運動嫌いになります。精神的にも内向的、消極的になりがちです。悪循環を断ち切らなければ、肥満は悪化する一方です。(4) 肥満の治療には家族ぐるみの取り組みが不可欠です。子ども一人に頑張らせても、また家族内で方針が一致しなくても、減量の成果はあがりません。

 肥満に関するご相談を当クリニックで承ります。対象年齢は2~3歳以上です。過度のカロリー制限は伸び盛りの子どもには危険ですので、必ず医師の指示を仰いでください。また、1歳以下の肥満(ぽっちゃり体型)は以後の肥満には繋がらないため、治療の必要はありません。