2010年1月13日

新規のワクチン二種

[1] 肺炎球菌ワクチン [ワクチン名;プレベナー]
 肺炎球菌とヘモフィルス菌(ヒブ)は、細菌性髄膜炎を起こす病原菌です。髄膜とは脳を包み込む膜です。頭蓋骨と脳の間にあり脳を守るクッションの役割を果たしています。髄膜炎とは、この髄膜に病原体が侵入して起こる病気です。脳と隣り合った場所にあるために、脳にもしばしば深刻な打撃を与えます。わが国では年間に約1000人の小児が細菌性髄膜炎にかかり、5~10%が死亡し、20~30%がけいれんや難聴などの重い後遺症を残します。

 肺炎球菌もヒブも身近にいるありふれた菌です。通常は、鼻の奥(鼻咽腔)に侵入した後、おとなしく定着して大きな問題を起こしません。この状態を「保菌」といいます。集団保育に入っている0~3歳児の約80~100%が、肺炎球菌とヘモフィルス菌(ヒブ)を保菌しています。おとなしく潜んでいた菌が、何らかのきっかけで鼻咽腔から血液に侵入し、さらに髄膜を侵して髄膜炎を起こすことがあります。小児の誰もが細菌性髄膜炎に罹患する危険性をかかえています。
 肺炎球菌とヘモフィスル菌(ヒブ)に対するワクチンはすでに実用化され、世界各国で絶大な効果をあげています。ヒブワクチンは1990年代に導入され、現在100ヶ国以上で定期接種に組み込まれています。肺炎球菌ワクチンは2000年に導入され、現在41ヶ国で定期接種に組み込まれています。これらの国では、肺炎球菌やヘモフィルス菌(ヒブ)による細菌性髄膜炎はほとんど見られません。すでに過去の病気と化しています。「ワクチン貧国」と揶揄されている日本は、世界に遅れること約20年、一昨年の12月にヒブワクチンが導入され、今年3月頃に肺炎球菌ワクチンが導入される見通しです。残念ながら、定期接種ではなく任意接種の扱いです。しかし自費負担であっても接種を強くお勧めしたいワクチンです。対象は9歳未満の小児ですが、特に2歳未満の乳幼児に必要とされています。
 肺炎球菌ワクチンの効果につきましては、次号のコラムでさらに詳しくお伝えいたします。

[2] ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン [ワクチン名;サーバリックス]
 ワクチンは感染症を予防するばかりでなく、癌(がん)の発症防止にも役立っています。ここに紹介するHPVワクチンは、女性の子宮頸癌を予防するワクチンです。
 子宮頸癌は女性特有の癌として乳癌に次いで多く、日本では毎年約15,000人が発症し、約3,500人が死亡しています。特に若い世代(20~40歳)に起こりやすい癌です。子宮頸癌は検診で早期発見が可能ですが、日本における受診率が24%と先進国中で最低のため、いまだ根絶には程遠い状態です。
 子宮頸癌はヒトパピローマウイルス(HPV)の感染によって起こります。HPV自体はごくありふれたウイルスですが、感染者の千分の一が子宮頸癌に進行します。セクシャルデビュー前の子どもにHPVワクチンを接種することにより、子宮頸癌の発生および死亡が約70%減少します。すでに性交経験のある15~45歳の女性に対しても、ワクチンの効果が期待できます。発症を防止できない残り30%は、定期検診によって早期発見・治療が可能です。HPVワクチンは2006年に初めて認可され、現在、世界100ヶ国以上で使用されています。米国、カナダ、EU諸国、豪州では公費負担でワクチンを接種できます。その効果と安全性は実証済みです。「ワクチンと検診」が子宮頸癌予防のスタンダードになっています。欧米に大きく出遅れましたが、日本でも昨年12月にようやく導入されました。対象は10歳以上の女性です。残念ながらこちらも任意接種の扱いですが、子宮頸癌は女性であれば誰もが罹患する可能性があるので、自費負担であっても接種を強くお勧めしたいワクチンです。