2011年9月11日

放射線の最新情報 ~大和市域を中心に~ (10月11日に情報を追加しました)

 東日本大震災から半年が経ちました。被害に遭われた方々に、衷心よりお見舞いを申し上げます。同時に起こった福島第一原発事故の影響は今なお深刻です。しかし、回復の兆しも見え始めています。現時点で判明している放射線の情報を皆様にお伝えいたします。主な情報源は「日本保健物理学会」「日本原子力学会」「放射線から子どもの命を守る」等です。


[放出された放射性物質] 大部分はヨウ素とセシウムです。その他のストロンチウム、プルトニウムなどの核種はほとんど放出されていません。ヨウ素131の半減期は8日で、今は検出できないレベルに下がっています。セシウム137の半減期は30年で、今後も検出されます。

[大気] 事故直後に大気中に放出された放射性物質は、すでに地表に固着しており、空気中にほとんど漂っていません。現在、福島第一原発の20km圏外において、大気中の放射性物質はほぼ存在しないと考えてよいと思います。なお、事故直後の1ヶ月間、東京近郊で最も高かった線量率「0.3マイクロシーベルト(μSv)/時」を用いて被爆量を計算すると、0.3 × 24時間 × 31日 = 0.22ミリシーベルト(mSv)です。これは自然界(宇宙線、地殻など)から受ける放射線の月平均 0.2mSvと同レベルです。この期間に屋外で活動していたとしても、また雨に濡れたとしても、健康が阻害された可能性はきわめて低いと考えられます。

[土壌] 土壌に存在する放射性物質は、現在、ヨウ素131は減衰して検出されず、① 地表に降下したセシウム134とセシウム137、② 元々自然界に存在する放射性物質(カリウム40、トリウム232等)が主な放射線源です。土壌からの放射線量は、大和市内の保育園や小中学校の校庭と砂場で定期的に計測され、大和市のホームページに公表されています。最新(9月9日)の計測値は0.05~0.08μSv/時 です。これは平時に観測される 0.1μSv/時弱 と同レベルであり、国際放射線防護委員会(ICRP)が定める被爆限度値 0.19μSv/時(≒ 1mSv/年)を下回っています。ゆえに、屋外での活動を制限する必要はないと思います。また、文部科学省は校庭の除染基準を1μSv/時 と定めていますので、除染が必要な箇所は大和市内にはありません。なお、地表に固着したセシウムが空気中に再浮遊する心配はほとんどないと考えられています。

[飲食物] 現在、スーパーマーケット等の店頭で販売されている食料品は、市場に出回る前に放射性物質の検査が行われており、暫定規制値以下であることが確認されています。安心して食べられます。また、現在の水道水中の放射線量は、暫定基準値を十分に下回っています。大気中の放射線物質の混入が再び起こる可能性はきわめて低いです。安心して飲めます。

[甲状腺検査や白血病の血液検査] 放射線レベルの高い福島第一原発付近(川俣町と飯舘村)に住む15歳以下の子どもの甲状腺被曝の調査を専門機関が行なった結果、甲状腺癌の発生の危険性は無いことが確認されました。東京近郊における放射線量はさらに小さいことから、発癌に及ぶ可能性はきわめて低く、検査を受ける必要は今のところありません。ただし、成長期にある子どもは大人よりも放射線への感受性が2~3倍高いため、今後の動向を注視していきます。

[放射線被曝の影響] 地球上の生物は自然界からの放射線(世界平均で年間2.4mSv)と元々共存しており、一定限度以下の線量であれば健康が阻害される可能性はきわめて低いです。しかし、子どもや妊婦には特別な配慮が必要ですので、今後も適正な情報を集めてまいります。


[参考]
・放射線による発癌リスク;100mSvを超えると発癌リスクが徐々に上昇する(逆に100mSv未満ではリスクの上昇なし)
・放射線による胎児への影響;100mSvを超えると先天奇形や精神遅滞などのリスクが上昇する(逆に100mSv未満ではリスクの上昇なし)
※ 福島県民の方々で100mSvを超える線量はありませんでした。概して10mSv以下です。
・医療その他における放射線量(一回あたり);胸部X線 0.05mSv、胃のX線検診 0.6mSv、胸部CTスキャン 6~7mSv、東京~ニューヨーク間の飛行機(往復) 0.19mSv
・自然界から受ける放射線量(年間あたり。世界平均);宇宙線 0.38mSv、地殻 0.48mSv、食物 0.24mSv、大気中のラドン 1.30mSv
・平均寿命が短縮される日数;タバコ(1日20本) 2250日、肥満 900日、酒 130日、自然界の放射線 8日


最新ニュース(9月12日)
 福島県は12日、警戒区域や計画的避難区域など福島第一原発の周辺から避難した11市町村、3737人に行った内部被曝の先行調査の結果を発表し「健康に影響を及ぼす人はいなかった」とした。(中略)浪江町の2人の子供が2mSv以上、同町の5人の子供が1mSv以上だったほか、全員が1mSv未満だった。福島県は検査対象者全員について、健康への心配はないと判断した。


最新ニュース(10月11日)
 福島県から長野県に避難した子どもの甲状腺検査に「変化」がみられたと、一部の報道機関が発表しました。その内容は「130人中10人で甲状腺ホルモンが基準値を下回るなど、甲状腺機能に変化があったことが10月4日分かった。健康状態に問題はなく原発事故との関連は不明(以下略)」 いかにも保護者の不安を増幅させる報道内容です。
 筆者(玉井)も属する日本小児内分泌学会は、検査を実施した信州大学から個人情報を削除した実際のデータを受け取って慎重に検討した結果、「今回の検診で得られた “検査値の基準範囲からの逸脱” はいずれもわずかな程度であり、一般的な小児の検査値でもときにみられる範囲である。これらの検査結果を放射線被ばくと結びつけて考慮すべき積極的な理由はない」と発表しました。
 被爆後数ヶ月という短期間に甲状腺疾患が発症するには、相当量の放射性ヨウ素の被爆を要します。しかし、福島第一原発事故後の小児甲状腺被爆線量調査において、甲状腺機能に変化をきたすような高線量は一人も報告されていません。そうしたことを考え合わせますと、検査値のわずかな逸脱と放射線被曝を結びつけるべき積極的な理由はないと考えられます。詳細は日本小児内分泌学会のホームページをご参照ください(http://jspe.umin.jp/shinsai.htm)。

 過度の楽観はいけませんが、過度の心配や不安もいけません。放射線に関しては不安を煽る報道が多々みられますが、当コラムは正確で偏りのない医学情報をお届けできるように努めます。今回の報道につきましても、保護者の皆様には心配には及ばないことをお伝え申し上げます。