2012年11月13日

同時接種のメリットは数多ある

 本年2月にヒブワクチンと小児用肺炎球菌ワクチンの公費助成が始まり、さらに11月下旬にロタウイルスワクチンの発売が決まり、乳児期早期に接種すべきワクチンの種類と回数が大幅に増えました。病気にかかりやすい年齢(月齢)に達する前に免疫を獲得するために、複数ワクチンの同時接種は今や欠かすことのできない大事な方法です。


 本年3月にワクチン接種後の乳幼児死亡の報告が相次ぎ、同時接種の安全性に対する疑問と不安が高まりました。直後に開催された専門医と有識者による検討会で、「死亡とワクチン接種との間に直接的な因果関係は認められない」「同時接種で重い副反応の増加は認められず、安全上の懸念はない」と結論づけられました。これを受けて4週後から同時接種が再開されましたが、同時期に東日本大震災が重なったため、安全宣言と再開の報道はごく小さな扱いに留まりました。その結果として、同時接種への漠然とした不安はいまだに払拭されていません。

 日本で満1歳の誕生日を迎えられない乳児は年間に2千人余。1日に数人の割合です。そのため、ワクチンを接種した乳児が数日以内にたまたま別の病気(先天異常、急性感染症、SIDSなど)で亡くなる可能性が避けられません。このような真の副作用ではない「まぎれ込み」の事例に対しても、健康被害の救済措置が適用され補償を受けることができます。とても優れた制度です。しかしこれをワクチンの副反応と混同した報道が時々あり、ワクチンは非常に危険との誤解を国民に与えています。

 同時接種に話を戻しますと、これは20年以上も前から世界中の国々で、先進国から途上国まで、普通に安全に実施されています。効果も副反応も同時接種と単独接種で差がありません。すでに数々の臨床研究で確認済みです。すべての種類のワクチンが同時接種でき、本数の制限もありません(ただし大和市と座間市では、異なる医療機関における同日接種は認められていません)。

 同時接種の利点を挙げてみますと、
1) 免疫をより早く付与できます。とくにヒブと肺炎球菌による細菌性髄膜炎は、乳児期に最も多く発生します。百日咳も同様です。病気はワクチンが済むまで待ってくれません。
2) 副反応の観察期間を同時接種の数だけ短縮できます。接種後の「まぎれ込み」を減らすこともできます。ワクチンを一種類ずつ別の日に接種する方が、まぎれ込みのリスクが増します。
3) 来院回数を減らせます。時間的な節約だけでなく、感染の機会を減らす点でも有利です。予防接種の時間帯でも、発症前の潜伏期にある感染症の人と同席する可能性がありますので。

 同時接種の欠点はとくに見当たりません。子どもは日常的に多くの細菌とウイルスにさらされており、一度に多くのワクチンを接種しても免疫系に過剰な負担がかかることはありません。効果は十分にあります。また、副反応の頻度も変わりません。むしろワクチンと無関係の「まぎれ込み」を減らすことができます。なお、ワクチン接種直後の急激なアレルギー反応(アナフィラキシー)のリスクは、同時接種後も単独接種後も同じです。ワクチンに限らずあらゆる薬剤で稀に起こり得ます。接種後少なくとも30分間、子どもの顔色をよく観察してください。

 この数年間、ヒブ、小児用肺炎球菌、子宮頸癌、ロタなど新しいワクチンが次々に導入され、ワクチン後進国だった日本もようやく先進国の仲間入りを果たしつつあります。しかし、これらが任意接種の扱いに留まっていること、同時接種の活用が遅れていることなど、残された課題はまだまだ多いと感じます。日本の予防接種が世界標準に達するまでには、まだしばらくの時間がかかりそうです。