2014年3月8日

誤解の多い!? アトピー性皮膚炎 (2)

 前回のコラムで、アトピー性皮膚炎におけるステロイド外用薬の有効性と安全性を述べました。もう少し具体的に使用量を説明しますと、小児で、中等度から弱めのステロイド外用薬を1日1本まで、4週間以内であれば、副作用が現れることはまずありません。実際にそんなに長く多く使うことはなく、乳児で3〜5日間、幼児で1週間きちんと塗れば、皮膚炎は改善し、以後は使用量を減らすことができます。もし変化がないとしたら、薬が弱すぎるか、副作用を恐れるあまり使用量が足りていないか、いずれかです(後者が多いと思われます)。ステロイド外用薬で早期に強力に治療し改善したら減量・中止する、その後は保湿剤などで良好な状態を維持する … これがアトピー性皮膚炎に対する治療の基本です。効果が不十分な薬をだらだら塗るよりも、しっかり効く薬を塗ってさっさと終わらせましょう。

 アトピー性皮膚炎には、ステロイド外用薬の他にも、誤った理解がいくつかあります。代表例は「アトピー性皮膚炎は食物アレルギーで起こる」でしょう。たしかに、食物アレルギーを持つ乳児は、ほぼ100%アトピー性皮膚炎を合併しています。しかし、アトピー性皮膚炎を持つ乳児は、食物アレルギーを合併しているとは限りません。研究報告によって幅がありますが、合併率は30〜90%です。アトピー性皮膚炎の原因がすべて食物アレルギーというわけではなく、両者は本来、別々の病気(体質)と考えるべきなのです。

 アトピー性皮膚炎をもつ乳児で、母乳以外の物をまだ口にしたことがないのに、特定の食物に対して血液検査で陽性反応を示す(=感作されている)場合があります。かつては、母親が摂取した食物が胎盤や母乳を介して乳児に移行して、食物アレルギーを発症し、さらにアトピー性皮膚炎に進むと考えられていました。このため、妊娠中や授乳中の母親は卵やピーナッツなどアレルギーを起こしやすい食物を避けるように指導されていましたし、乳児はアレルギーを起こしやすい食物を含む離乳食を遅らせることが推奨されていました。しかしそのような努力をしても、アトピー性皮膚炎を予防する効果はみられませんでした。最近では、乳児期早期の感作は皮膚で起こるとする説が有力視されています。アトピー性皮膚炎で傷んだ(=バリア機能が低下した)皮膚を通して食物成分が体内に侵入し、アレルギーを起こすという考え方です。口から摂取して腸管から吸収された食物成分は、アレルギー反応をむしろ起こしにくいとさえ言われています。昨年、茶のしずく石鹸による健康被害が問題になりましたが、これは小麦成分の含まれた石鹸を使用することで経皮感作が起こり、小麦成分を普通に食べられていた人が小麦アレルギーを発症するに至った事例です。食物アレルギーは「食べて起こる」のではなく「皮膚を通して起こる」ようです。したがって、アトピー性皮膚炎の子どもが食物アレルギーを合併しないように導く最良の手段は、適切なスキンケアにより皮膚の状態を良好に保つことであり、食物摂取をいたずらに避けることではないという結論になります。アトピー性皮膚炎の常識は大きく変わりつつあります。

 アトピー性皮膚炎に石鹸はよくないという考え方が根強く残っています。たしかに石鹸を使いすぎると皮脂膜が洗い流されて皮膚のバリア機能が低下します。石鹸に含まれる添加物が皮膚への刺激になることもあります。しかし石鹸を適切に使い、汗、垢、食べこぼしなどの汚れを取り除くことは、皮膚の清潔保持に欠かせません。石鹸を泡立てながら優しく洗い(強くこすらない)、風呂上がりの早いうちに保湿剤を塗れば、肌が荒れることはありません。石鹸は無添加のものを使いましょう。こちらも古い常識が次第に変わりつつあります。