2015年5月20日

ビタミンD欠乏症が増えている

 食生活が豊かになった現代社会で、「ビタミンD欠乏性くる病」に罹る乳幼児が増えています。栄養不良を象徴するような過去の病気が、なぜ今ごろになって復活したのでしょうか。その背景には、食生活の偏りと日光照射の不足があります。新たな現代病になりつつある、ビタミンD欠乏性くる病について概説いたします。

 骨は、骨基質(コラーゲン、オステオカルシンなどの蛋白質)にミネラル(リン酸カルシウム)が沈着し石灰化することで、固くなり、伸びていきます。ビタミンDは、カルシウムの体内への取り込みを手伝う働きをします。ビタミンDが不足すると、カルシウムを小腸から吸収することができなくなり、骨の石灰化が障害されます。石灰化されない骨は脆くなり、体重がかかると曲がってしまいます(O脚)。また、骨が伸びなくなるため身長の増加が鈍ります(低身長)。

 ビタミンDには二つの供給源があります。一つは、食事などから栄養として摂取することです。もう一つは、紫外線に当たることにより皮膚で合成することです。両者が合わせて供給されていれば問題はありませんが、近年の育児法ではどちらも不足しがちになっています。

 母乳は乳児にとって最もすぐれた栄養法ですが、ビタミンDの含有量だけは不足しています。完全母乳栄養では、所用量の約半分しか満たしません。その不足を補うのが毎日の日光浴です。日光の紫外線を浴びると、皮膚でビタミンDが合成されます。一日に10〜15分間、通常の服装で柔らかな日射しに当たれば(または日陰で30分間)、ビタミンDの合成に十分です。なお、粉乳には十分量のビタミンDが添加されているため、完全人工栄養でビタミンD不足は生じません。

 完全母乳栄養はビタミンD不足を招きがちですが、それだけでビタミンD欠乏性くる病を生じることはありません。くる病に罹った子どもの背景を見てみると、もともと母乳栄養で、紫外線に当たっていない場合や、食物アレルギーのために(または予防のためと称して)食品を極端に制限している場合、あるいは母親が偏った食生活を送っている場合など、複数の要因が重なっています。母乳がすぐれているのはあくまで母体が健全であることが前提条件で、痩せ志向の母体からの母乳はビタミンD含有量がさらに少なく、子どものビタミンD欠乏を助長します。

 紫外線の害が声高に叫ばれ始めた1990年代から、世界的にくる病の発生が増えています。日本でも、以前は母子手帳に日光浴の奨励が記されていましたが、1998年以降は外気浴の言葉に置き換えられ、紫外線対策が強調されるようになりました。昨今、乳児用の日焼け止めクリームなど紫外線対策の商品が氾濫している有様です。過度の紫外線が皮膚癌や皮膚老化につながることは確かですが、適度の日光(日焼けするより少ない量)まで恐れる必要はありません。

 母乳栄養でビタミンDが不足した上、離乳食で不足分を取り戻せないと、くる病の危険性が増します。ビタミンDは、魚、卵黄、きのこ類、バターなどの食品に豊富に含まれています。離乳初期はシラス、カジキマグロ、中期・後期はサケ、カツオ、ツナ、卵、1歳以降は干し椎茸などを活用するとよいでしょう。アトピー性皮膚炎や食物アレルギーで食事制限をしなければならない場合、ビタミンDが不足しないためのアドバイスを医師から受けましょう。自己の思い込みだけで「念のために」食事制限をしてはいけません。

 ビタミンD欠乏性くる病は、母親が知識を持つことで防ぐことができる病気です。今一度、わが家の生活習慣を見直してみましょう。