2016年3月20日

保育園・幼稚園での感染症対策

 四月から入園を迎える皆様、おめでとうございます。新しい生活を始めるにあたり、親子共々に期待と不安が交錯する日々であろうと推察いたします。

 入園後間もなく、しばしば熱を出したり、咳が止まらなかったり、いつも鼻水を垂らしていたり … 風邪をひいてばっかり。「うちの子、こんなに弱かったかしら?」という状況が訪れますが、これはごく普通のこと。集団生活に入ると、これまでの家庭生活と比べものにならないほど、多種多様の病原体と遭遇します。風邪を引き起こすウイルスは約200種類あるといわれます。熱も咳も鼻水も、子どもが病原体と闘っている証です。一つ一つの風邪を乗り越えることによって、子どもはそれぞれの病原体に対する免疫を獲得し、次第に丈夫な身体になっていきます。

 入園前に行っておくべき大切な点は、予防できる感染症のワクチンを済ませておくことです。ワクチンが存在する感染症は、かかると重症化する危険性のあるものばかり。ワクチンの種類は多くありませんので、接種できるものはすべてしておくという方針が望ましいです。定期接種のワクチンだけでなく、任意接種のおたふくかぜ、B型肝炎、インフルエンザの各ワクチンもぜひ受けましょう。任意接種というのは制度上の区分に過ぎず、「してもしなくてもいいワクチン」という意味ではありません。いずれも大切なワクチンです。今一度、母子手帳の接種歴をご確認ください。

 入園後に気をつける点は、家に帰ったら心身をゆっくり休めることです。子どもは慣れない園生活で疲れています。保護者と触れ合う時間は、入園前に比べて大幅に減っています。家庭での休息とリフレッシュは、子どもの免疫力を高める上で必要不可欠です。親子そろって伸び伸びと自由な時間をお過ごしください。習い事も大事でしょうが、疲れを残さない範囲に留めておきましょう。

 しかしどれだけ気をつけていても、子どもを病原体から完全に隔離することはできません。園に通い始めてから最初の半年や一年は、頻繁に風邪をひきます。その時に備えて、信頼を寄せられて何でも相談できる、かかりつけ医を持ちましょう。信頼できるかどうかを判断する方法は? 私見を述べさせていただくと、病状をしっかり聞いて身体をしっかり診ること、診断と治療方針をわかりやすく説明すること、余計な薬を使わないこと(熟練した医者ほど処方はシンプルです)などが基準になります。以下、薬の使用法について解説を少々付け加えます。

 風邪を起こす病原体の9割はウイルスです。ウイルスに抗菌薬(抗生物質)は効きません。風邪のたびに抗菌薬を使っていると、上気道粘膜に定着する細菌が薬剤耐性菌ばかりになって危険です。最初から重症であったり経過とともに増悪傾向を示したりする場合(これらを見抜く眼を持つ医者が名医)を除き、軽症と判断したら2〜3日間は抗菌薬の使用を控えて経過を観察すべきです。熱がある、のどが赤い、鼻水が黄色いは、直ちに抗菌薬を使う口実にはなりません。軽症の風邪でも直ちに抗菌薬を使うべき病気は、溶連菌感染症など少数です。

 風邪薬の使用にも注意が必要です。熱も咳も鼻水も、本来は病原体を排除するための生体防御反応。強力な咳止めや鼻水止めを使っても早く治るわけではなく、むしろ症状を長引かせる場合があります。有害な副作用も少なくありません。風邪薬を多種・大量に用いることが良い治療とはいえません。むしろ逆です。また、根拠なく「アレルギー」と称して、風邪薬や抗アレルギー薬を長期間処方することもどうかと思います。風邪薬の使用目的は、不快な症状を和らげたり体力の消耗を防いだりすることです。

 風邪のほとんどは自然治癒します。薬の役割は限定的で、子どもが本来持っている免疫力と保護者のホームケアが「風邪を治す」のです。保護者(とくにお母さん)の愛情と献身の効果は絶大です。風邪の診療において私が心がけていることは、1) 正確な判断と慎重な経過観察、2) 画一的ではなく薬漬けでもない、病状に合わせた適切な治療・投薬、3) 保護者の不安解消と子育て支援(風邪への対応力の向上)の三点です。