2016年3月27日

風邪薬はどれだけ効くか !?

 「リゾチーム製剤が市場撤退。追試に失敗。製薬会社が自主回収」… 2016年3月18日付の新聞の見出しです。リゾチーム製剤の商品名は、アクディーム、ノイチーム、レフトーゼなど。「気管支炎、気管支喘息、気管支拡張症の喀痰喀出困難に効く」との触れ込みで販売され、風邪の治療にもしばしば用いられてきました。しかし、適応疾患を広げようとして再評価調査を行った結果、逆に「効かない」ことが実証されてしまい、承認を取り消さざるを得なくなったというお粗末な話です。当院はリゾチーム製剤の有効性に疑問をいだき、過去10年以上にわたって使用を控えていました。判断は間違っていなかったことになります。

 わが国で日常的に使用されている風邪薬のいくつかは、実にいいかげんな臨床試験で「有効」と判定された代物です。たとえば上記のノイチームの臨床試験は1960年代に ”わずか” 3施設で ”わずか” 95例に対して、有効、やや有効、無効、の三段階評価で判定されました。その結果は、有効30.5%(29例/95例)、やや有効82.1%(78例/95例)です。皆様はこの数値を見て「よく効く薬だな」と思われますか? 私は「やや有効って何? 効いているのかいないのかどっち? 主観的な評価を都合のいい方に解釈(操作)すれば有効率をいくらでも上げられそう」と感じました。これで「有効」と結論づけてしまう厚かましさに驚くばかりです。そもそも風邪は生体の持つ免疫反応によって自然に治る病気ですから、「有効」の中にはノイチームの服用に関係なく治癒した症例もあるはずです。と言いますか、おそらく大半が薬の作用によらない自然治癒でしょう。こんないいかげんなデータに基づいて、半世紀にわたって「効かない」薬が大量に販売されてきたわけです。リゾチーム製剤の年間の出荷金額は約46億円に達していました。医療費の壮大な無駄遣いです。リゾチーム製剤の他にも、鎮咳薬としてよく使われるアスベリン、去痰薬として使われるビソルボンなどは、50年以上前に同種のインチキ試験で「有効」と判定された風邪薬です。当院は、これらの薬もできるだけ使用しません。

 薬効の評価は、二重盲検比較試験という方法を用いなければ、学術的に認知されません。被験者を二群に分け、本物の薬と偽物の薬を使い分け(処方する側もされる側も本物か偽物か分からないようにして)、効いたか効かないかを判定する方法です。風邪の場合、偽薬でも「効いた」と誤って評価されることがあり(自然治癒するため)、二群間の差異が現れない(すなわち「有効」と判定されない)場合も出てきます。「飲んだ、治った、だから効いた」は、自然治癒が見込める風邪においては誤った三段論法です。風邪薬だけでなく、抗菌薬(抗生物質)にも同じことが当てはまります。発熱を伴う風邪に抗菌薬を使うと、いかにもそのおかげで熱が下がったように見えます。しかし、風邪の原因の90%が抗菌薬の効かないウイルス感染症であることを考えると、抗菌薬を使わなくても熱の大半は自然に下がったはずです。抗菌薬を必要とする10%の細菌感染症を見分ける臨床眼が大切であって、「風邪だから」「熱が出ているから」という理由でなんでもかんでも抗菌薬を使っていたら、もはや正しい医療とは言えず、抗菌薬の自動販売機と化してしまいます。残念なことに、わが国は今もなお抗菌薬の乱用が後を絶たず、世界屈指の薬剤耐性菌大国に数えられています。抗菌薬は細菌と闘うための大事な武器、だから必要な時だけしっかり使う、という姿勢を堅持したいものです。

 風邪薬は病気に伴う不快な症状を緩和するための大事な手段です。効く薬も効かない薬も不要な薬も一緒くたに混ぜ合わせて山のように盛り付けるのではなく、その風邪に対して本当に必要で、しかも信用できる薬を適切に使うことを心がけてまいります。