2017年1月11日

腸内細菌叢の乱れは病気を起こす

 われわれ人間の腸管内には、500種類、数百兆個、重さに換算して1〜2kgの腸内細菌が共生しています。多種多様な細菌が群生する様はお花畑(フローラ)にたとえられ、腸内細菌叢(腸内フローラ)とよばれます。

 腸内細菌叢の構成は年齢とともに変化します。胎生期は無菌状態で過ごし、出生後数時間のうちに腸内に細菌が定着し始めます。母乳で育っている期間は、90%以上がビフィズス菌で占められます。離乳食が始まると、食物と一緒に様々な細菌が口から入るため、ビフィズス菌は優勢でなくなり(10%前後に減少します)、バクテロイデス、ユウバクテリウム、連鎖球菌、大腸菌、腸球菌、ウェルシュ菌などが増加します。以後、様々な細菌が定着したり排除されたりして変動しながら、しだいにバランスのとれた構成に落ち着いていきます。いったん形成された腸内細菌叢は大きく変わることなく、生涯のパートナーとして共生し続けます。

 腸内細菌叢が人体に与える利点は主に三つあります。一つめは消化や代謝の補助です。食物の代謝を手助けし、ビタミン類や短鎖脂肪酸など有益な物質を合成します。二つめは粘膜面での病原体からの防御です。外敵の侵入を防ぐために、腸管粘膜を保護したり栄養を奪取したり抗菌物質を産生したりします。三つめは(これが現在最も注目されている分野です)、腸管粘膜免疫系の発達と維持です。腸内細菌叢と免疫系は双方向に制御しあいながら、身体の防御システムを構築しています。

 健全な腸管粘膜免疫系の形成には、乳幼児期の成長過程(とくに出生から3歳まで)において、適切な時期に特定の菌種(キー・ストーン種)による粘膜への刺激が必須です。もしもキー・ストーン種が存在しないと、腸管粘膜免疫系は正常に発達できず、異常を抱えて発達することになり、その悪影響は全身の免疫系に波及します。乳幼児期に様々な外的要因(とりわけ抗菌薬(抗生物質)の乱用)によってキー・ストーン種が失われると、身体の防御システムがうまく構築できず、後々に炎症性腸疾患、アレルギー疾患、膠原病、肥満、糖尿病などが発症しやすくなります。近年、気管支喘息、食物アレルギー、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患が急激に増加していますが、乳幼児期の抗菌薬への曝露との関連性が多くの研究により明らかにされています。

 抗菌薬は多くの風邪には必要ありません。風邪の90%は、抗菌薬の効かない(基本的には自然に治る)ウイルス性疾患です。「とりあえず」「熱があるから」「のどが赤いから」「鼻水が黄色いから」などの理由で安易に抗菌薬を使うことは厳禁です。しかし、抗菌薬が必要な細菌感染症が存在することも事実です。ここは使うべきところ!と判断したら、しっかり使うことも大切です。その場合、腸内細菌叢を大きく乱さないことを意識して(抗菌薬の終了後、元の状態に速やかに回復することを目指して)、必要以上の期間だらだらと使わないことを心がけるべきです。抗菌薬の適正使用の目的は、(1) 薬剤耐性菌の産生阻止、(2) 下痢の回避とともに、(3) アレルギー疾患などの発症阻止もあることをご理解いただけるかと思います。

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