2017年5月21日

夏かぜに漢方薬  〜 実はよく効く 〜

 漢方薬と聞いて何を想起するでしょうか。「何となく効きそうな気がする」から、「胡散臭い、怪しげ、効くわけがない」まで、人によって様々なイメージが語られると思います。かく言う私も20年前までは後者の部類でした。今と違って学生時代に漢方医学の講座がなかったから、と言い訳しておきます。しかし漢方医学を独学で勉強し、漢方薬を実際に使ってみて、その著しい効果に感服したり驚嘆したりする場面がどんどん増えています。こんなに便利で役立つツールを利用しない手はない! 西洋医学を主軸に据えながらも、カバーできない部分を漢方医学で補完する、というのが当院の基本方針です。西洋薬か漢方薬か、という二者択一にこだわるのではなく、両方のいいとこ取りをすればいいと考えています。

 漢方薬の得意分野の一つに「免疫調整作用」があります。生体の防御機能が低下した時、免疫系を活性化させて、病原体への抵抗力を高める働きです。体内システムの異常を元に戻す作用は漢方薬に特有であり、この点で西洋薬は全くかないません。免疫調整作用を有する漢方薬の代表例は、麻黄湯(まおうとう)、葛根湯(かっこんとう)、小柴胡湯(しょうさいことう)、柴胡桂枝湯(さいこけいしとう)、補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)などです。葛根湯はわりと有名ですね。子どものかぜの約90%はウイルス感染症です。抗菌薬は効きませんので、こういう時こそ漢方薬の出番です。

 これからの季節、ヘルパンギーナや手足口病などの夏かぜが流行します。悪さをする病原体はエンテロウイルス属(コクサッキーウイルス、エコーウイルスなど)です。高熱や口内炎や皮疹が突然に現れます。口内痛をしばしば伴うため、思うように食べたり飲んだりできません。西洋医学で対応しようとすると、抗菌薬は意味がないので、せいぜい解熱薬とうがい薬くらいでしょうか。あとはひたすら寝て治るのを待つしかありません。漢方医学ならば、積極的に治すための選択肢がいくつかあります。子どもが高熱でふうふう言っている時は麻黄湯を試します。ただ漠然と飲ませるだけでは効果が薄いです。飲ませ方にコツがあります。また、止め時や他の薬への切り替え時にもコツがあります。そのあたりは個々の子どもの体質や状態に合わせて判断します。ヘルパンギーナや手足口病の他にも、たとえば、アデノウイルスによる咽頭結膜熱(プール熱)にも漢方薬がある程度は役に立ちます。溶連菌による咽頭扁桃炎は … これは抗菌薬の出番ですね。中耳炎や副鼻腔炎を併発した時も、抗菌薬が必要かもしれません。夏かぜの診療においても、丁寧な問診と診察そして的確な診断は大切です。なんでも漢方薬、なんでも西洋薬、といった偏った考え方ではなく、病態に応じた最適の治療法を正しく選択したいと思います。

 漢方薬の最大の欠点は、独特の味と臭いです。飲み方の基本は「熱い湯に溶いて飲む」ことですが(その方が速く効きます)、大半の子どもには難しいですね。当院は「単シロップ割り」をお勧めしていますが、それでも飲めない時は好みの食材に混ぜ込んで下さい。ココア、アイスクリーム、ヨーグルト、ジャム、ゼリー、カルピスなど何でも構いません。パンケーキやクッキーの生地に混ぜ込んで焼く、なんてこともありです。最初は、ひとくち舐められただけでもうんと褒めてあげましょう。お母さんの熱意と褒め上手がポイントです。飲んで褒められて身体が楽になることを感じれば、子どもは嫌な薬でも一生懸命に飲むようになります。頑張って薬を飲ませてくれるお母さんを私が褒めることも、服薬を成功させるポイントかな (^_^)v